聞き手・田渕紫織
関東大震災の直後、流言を信じた民間人や軍、警察によって、朝鮮半島出身の多くの人々が殺傷された。しかし、松野博一官房長官は8月末に「記録が見当たらない」と発言。にわかに、内閣府が設けた中央防災会議の専門調査会が2009年に出した報告書に焦点が当たった。当時の政府資料に基づいて調査を取りまとめた専門家の一人、東京大の鈴木淳教授(歴史学)は、こうした反応をどう受け止めているのか。
松野官房長官「記録が見当たらない」と発言
――関東大震災時の朝鮮人虐殺について松野官房長官が「政府として調査した限り、事実関係を把握することのできる記録が見当たらない」と発言したことに疑義が相次ぎました。
議論の中で多くの人があの報告書を根拠資料としていると聞き、戸惑っています。当初の意図を超えているとも言えます。
――と言うと?
あの報告書は、政府機関が当時公表した情報からどれだけのことが言えるかという、非常に限定的な範囲のものです。つまり、当時の政府発表の焼き直しで、「最低限」のものであり、事件の全貌(ぜんぼう)を伝えるものではありません。
様々な先行研究が指摘する通り、数としても内容としてもこれが全てではないという論旨で書いています。
当時の政府が少なくともそう認めているという数字によりかかっているので、その外側にもっとたくさんの犠牲者がいるのに過小評価しているという批判は当然こうむるだろうと思いながらまとめたものです。
鈴木教授に、官房長官の発言をどう受け止めたのか問うと、意外な答えが返ってきました。 報告書を書いた当時のやりとりや、今も繰り返される災害後のデマについても聞いたロングインタビューです。
――政府の資料だけに限定せず、全体像をつかむことはできなかったのでしょうか。
多くの場所で殺傷事件があっ…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル